数年前、アメリカ西海岸北西部のオレゴン州ポートランドを訪れました。
私のディスプレイ視察は、ホリデーシーズンのニューヨークが定番ですが、西海岸の夏の穏やかな気候も楽しみたくて、初めて訪れたポートランド。ニューヨークにも足を伸ばし、2都市を巡りました。
コロナ禍で海外へはまだ行けませんが、旅の記憶を辿って、今も色あせない夏のディスプレイをご紹介します。
夏のリゾートへいざなう、 自然素材のアートワーク
店内入ってすぐのエントランスディスプレイは、お店の顔です。
「今年の夏はどこにバカンスに行こうかな?」
「その時はどんなファッションがいいかな?」
「爽やかで心地よい、麻やコットン素材がいいかも!」
ディスプレイを見た瞬間から、夏のバカンスシーンのイメージが連想ゲームのように広がります。そして不思議なことに、最終的には商品に興味を持ってしまう……それは、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の魔法にかかってしまうからです。
VMDは、ブランドや商品の魅力を視覚的に伝える、商業店舗の演出手法。購買決定を行うのは、五感の中でも視覚から得た情報が約8割を占めると言われています。
店内に設置したビジュアルプレゼンテーションスペースで、商品を主役にしたディスプレイを展示し、視覚的なメッセージを届けます。
夏のファッションに多く使われる、麻やコットンの自然素材を用いたアートワークは、訪れた人に商品の魅力を伝えるためのアプローチ。さまざまな編み方でロープ状にしたものを、高い天井から吊り下げたディスプレイです。グレイッシュカラーのマネキンが纏うカラフルなリゾートファッションが際立ちます。
商品のカラフルなドレスが主役になるように、背景のアートワークは自然素材の色で表現されています。最終的に商品への興味を持ってもらうようなストーリーテリングを空間上でつくるのが、ディスプレイクリエイターの仕事です。
素材から発想する ディスプレイデザイン
ディスプレイのプロがデザインを考えるとき、コンセプトワードから発想する人、造形からイメージを喚起する人、そして素材から考える人など、いろいろなタイプがいます。このショップでは、素材から発想して様々なアートワークを生み出しているようです。麻やコットンなどの自然素材を、大きなタッセルのような造形に仕立てた、シーリングディスプレイがユニークです。
ディスプレイの後ろ側に回ると、目線近くにアートワークを見ることができます。すべてハンドメイドによるもので、ループ状やフリンジなどテクスチャーの違う自然素材の造形を、ひとつひとつ楽しめます。まるでギャラリーのように、アートとファッションが融合した空間は、程よいリラックス感もあり、感度の高いポートランドの女性に人気なのがわかります。
ポートランドとニューヨークの ディスプレイ比較
ここまでご紹介したディスプレイは、アメリカのライフスタイル・スペシャリティストア「Anthropologie(アンソロポロジー)」のポートランド店。ここからは、ニューヨークのマンハッタン・ロックフェラー店のディスプレイもご紹介します。
ニューヨーク店のウインドウディスプレイにも、自然素材を用いたアートワークが。
ブラシや刷毛のようなイメージの天然木の造形のオブジェが並び、まるでクラフトギャラリーのようなウインドウです。
ブラシ部分のイエローとマネキンが着ているファッションのイエローがリンクしています。
一番目立たせたい服の色を背景にも用いることで、見る人に色の効果を印象づけます。背景のベースカラーは補色のブルーグリーン。イエローが際立つカラーコーディネートです。
こちらのウインドウのアートワーク、何に見えますか?
私には筆をモチーフにしたような造形に見えましたが、このように見る人の想像力を掻き立て、何だろう?と思わせることで、ウインドウの前で立ち止まってディスプレイに見入ってもらえます。
こちらも思わず立ち止まりそう。天然木のスカルプチャーに、麻やコットンの自然素材がさりげなく添えられています。
さて、こちらのオブジェは何に見えますか?
スポンジやブラシのモチーフのような造形が、ユーモラスな印象です。
ニューヨークのお店のウインドウディスプレイは、自然素材を用いながらもスタイリッシュさがあり、都会的な着こなしの提案が印象的でした。同じコンセプトでも、訪れた街にローカライズされたディスプレイ展開から、新しい魅力を発見することができました。
緑あふれる美しい街、ポートランド
木洩れ日が美しいポートランドの昼下がり
画像は2017年7月に現地で撮影したものです。